佇まいも、座る姿も美しく。イトーキの最新タスクチェア「Act2」のデザイン哲学
公開日:2025.11.28 更新日:2025.11.28
オフィスや自宅で働く時間が増えた今、ワークチェアに求められるのは機能性だけではありません。空間に調和し、使う人の心を満たす「デザイン性」もまた、重要な要素となっています。
そんな中、イトーキで最も人気のタスクチェア「Act」は、なぜ「Act2」へと進化したのか。その背景にあるデザインコンセプト、フォルムや色彩に込められた数々のこだわりについて、開発を担当したプロダクトデザイナーの成瀬さん、和田さんに話を伺いました。
コンセプトは「Simple and Clearly」。人気のタスクチェアが進化を遂げて再登場
イトーキで最も売れているタスクチェアを、なぜ進化させる必要があったのでしょうか。
和田さん: 2018年に発売された初代「Act」は、社外のデザイナーと共同で開発したイトーキで最も人気のタスクチェアです。しかし、発売から5年が経過したことで、商品の鮮度を保つこと、そして、この5年間で大きく変化したオフィスのデザイントレンドに対応する必要が出てきました。
そこで、既存の魅力をさらに高め、現代の働き方や空間にアジャストさせることを目的に、「Act2」を開発しました。具体的には、CMF(色・素材・仕上げ)を見直し、新たにアジャスタブルヘッドサポートやペルヴィス&ランバーサポートというパーツを追加したり、新開発の座面を採用したりと、座り心地を多面的にアップデートしています。
「Act2」のデザインコンセプトを教えてください。
成瀬さん:「Act2」をデザインする上で掲げたキーワードは、「シンプルアンドクリアリー(Simple and Clearly)」です。「Act」の良さを引き立てつつ、その機能性を端的かつ明快に感じられるデザインを目指しました。
タスクチェアはどうしても機能が詰め込まれ、メカニカルな印象を与えがちです。そこから脱却し、ユーザーが直感的に理解し、受け入れられるような、洗練されたシンプルな佇まいを追求しました。
機能性とデザイン性の両立。ディテールに宿るデザイナーのこだわり
「Act」から「Act2」へアップデートするうえで、どのような工夫をしましたか?
成瀬さん:「Act2」は、初代「Act」の本体形状は変えずに、アジャスタブルヘッドサポートやペルヴィス&ランバーサポートを追加することで、機能面だけでなく視覚的にも「進化」を表現しています。最大の挑戦は、これらの追加パーツを単なる「後付け」に見せないことでした。
元から一体であったかのような自然なデザインに仕上げつつ、ワンランク上のタスクチェアとしてアップデートされた印象を与える。その両立が非常に難しく、デザイナーと設計担当者で何度も協議を重ねました。
私たちは見た目の美しさだけを先行させるのではなく、理想の姿勢を支えるための「構造」に美しさを見出し、それをいかに洗練された形に落とし込むかというアプローチを取っています。機能から生まれる必然的な形を、どう美しく見せるか。そこがイトーキのデザイナーとしての腕の見せ所だと考えています。
アジャスタブルヘッドサポートのデザインでこだわった点を教えてください。
成瀬さん:背もたれの支柱から滑らかにつながる一体感のあるシルエットを追求しました。そのために、回転機構や取り付けマウントを極限まで小さく、薄く設計しています。
また、心地よさと軽快感を両立させるため、クッションの中央には十分なボリュームを持たせつつ、エッジは薄く見えるようにデザインしています。裏面にも同じ張り地を施すことで、どの角度から見ても柔らかく上質な印象を与えられる点もポイントです。
さらに、上下昇降のためのレール機構をクッション内部に収めることで、機能部品の露出をなくし、シンプルで美しい外観を実現しました。
ペルヴィス&ランバーサポートの形状や素材でこだわった点を教えてください。

成瀬さん:腰と骨盤の2点を支える新しいペルヴィス&ランバーサポートは、広範囲をサポートするために面積を大きくする必要がありました。しかし、それが圧迫感につながっては意味がありません。そこで、柔軟性・強度・透明性を兼ね備えた新素材「トライタン」を採用しました。
透明なパーツにしたのは、その奥にある背もたれの格子模様が透けて見えるように、という視覚的な美しさを意図したためです。あらゆる色の背もたれと調和するよう、透明パーツの色味はわずかに青みがかったグレーに調整し、表面にはマットな質感を生むシボ加工を施すなど、微細な調整を重ねています。
あらゆる空間に溶け込むCMFの秘密
なぜパーツ全体の色を統一する「ワントーン」を採用したのですか?
操作部もライトグレーで統一
和田さん:パーツ点数の多いタスクチェアを、空間に調和する一つの「家具」として見せるためです。従来は黒が一般的だった操作レバー類も、本体と同色に統一しました。これはイトーキのチェアとしては初の試みで、家具としての調和を重視した結果です。光沢感を抑えたマットな質感に仕上げることで、空間の中で主張しすぎず、落ち着いた印象を与えます。
カラーバリエーションは、どのような考えで選ばれたのでしょうか?
和田さん:本体のカラーバリエーションはブラック、ライトグレー、ダークグレーの3色です。近年のインテリアトレンドを反映し、ラインナップを見直して、木目やグリーンとも相性の良いニュートラルカラーを揃えました。

特にこだわったのは、やや温かみのある色調の「ダークグレー」です。この絶妙な色味を、ポリプロピレンやナイロンなど、特性の異なる複数の素材パーツで統一させるのは非常に困難な作業でしたね。
素材が違えば色の見え方も変わるため、何度も試作を重ねて理想の色味を追求しました。このダークグレーは、ウォルナットなど濃い色の木材や観葉植物とも相性が良く、空間に上質で落ち着いた雰囲気をもたらします。
Act2がオフィスと働き方にもたらす価値
Act2は、どのようなオフィス空間にマッチすると思いますか?
和田さん:近年、ワーカーが心地よく過ごせる、ホテルのようなホスピタリティの高いオフィス空間が増えています。「Act2」は、そうした空間に置かれても違和感なく調和するデザインを意識しました。「デザイン性の高い空間で長時間快適に作業ができる」という機能的な価値を提供できるのが強みです。
自宅で使う場合、インテリアに調和させるためのヒントはありますか?
成瀬さん:ご自宅のインテリアのベースカラーとの相性で選ぶのがおすすめです。温かみのある「ダークグレー」は、濃い色の木材や観葉植物がある空間によく合います。一方で、明るい木材や白い壁が主役の空間には「ライトグレー」が馴染みやすく、端正で美しい佇まいが際立ちます。
座る人の姿も美しく見せる、仕事の良きパートナーへ
Act2を通じて、ユーザーにどのような体験を届けたいですか?
和田さん:長時間座っても疲れにくい機能的な心地よさはもちろん、優れたデザインがもたらす精神的な心地よさも体験してほしいです。日々の仕事を支える「パートナー」のような存在になれれば嬉しいですね。
成瀬さん:私たちは、椅子単体の美しさだけでなく、ユーザーが座った時の姿も美しく見えるようにデザインしました。そのことが働くモチベーションにつながれば、これほど嬉しいことはありません。
最後に、Act2を検討されている方へメッセージをお願いします。
和田さん:「Act2」は、アジャスタブルヘッドサポートとペルヴィス&ランバーサポートが付いた状態でこそ、プロダクトとしての完成形となります。イトーキの技術の粋を集めて開発したタスクチェアです。ぜひ、ショールームなどでフルスペックのものを体験して、デザインと座り心地を体感してほしいです。
